第3章
 歌姫と戦女神

 デブリ帯でキラのストライクが拾ってきた救出ポッドからは、予想もしない珍客が出てきた。
「ハロ! ラクス! ハロ!」
 ボールの様に丸く、小さなロボットと、
「ありがとう。ご苦労様です」
 まるで絵物語のように華麗で、どこか浮世離れした美少女だった。無重力空間をふわふわと
漂うその姿は、まるで妖精の国の王女のようだ。
「あら? あらあら?」
 バランスを崩したのか、よろける少女の手をキラは掴んだ。
「ありがとう」
「あ……いえ」
 照れるキラ。ふと少女の目が、キラの着ている地球軍の制服に移る。ここでようやく少女は、
周りにいる人々が皆、地球軍の服を着ている事に気が付いたようだ。
「あら? あらあら? まあ! これはザフトの艦ではありませんのね?」
 どこかズレている少女の雰囲気と言動に、ナタルは頭痛を覚え、マリューも嫌な予感を感じて
いた。『また、やっかいなものを拾ってしまったのか』と。
「ふう……。相変わらずだね、あんたは」
 一同の中にいたガーネットが呆れたように言う。
「バーネット少尉、彼女を知っているのか?」
 ナタルが尋ねる。ちなみにガーネットには艦長権限で少尉の位が与えられていた(暫定的なも
のではあるが)。
「ええ副長、彼女は…」
「まあ! お姉様!」
 そう言って少女は、キラの手を離れ、ガーネットの胸に飛び込んだ。
「うわっ、ととっ!」
「お久しぶりですわ、ガーネットお姉様。わたくしです、ラクス・クラインです。お元気そうで何より
ですわ」
「あー、まあ、元気は元気なんだけどね……」
「あら? でもお姉様がいらっしゃるという事は、やはりここはザフトの艦なのですか? ですが、
ザフトの制服が変わったというお話は聞いてませんけど」
「…………ホント、相変わらずだね、あんたは」
 少し呆れながらも、ガーネットは久しぶりの『友』との再会を喜んだ。そしてマリュー艦長は、自
分の予感が当たっている事を確信し、少しだけ神様を呪った。



「………………」
 フレイ・アルスターは不機嫌だった。
 ヘリオポリスを脱出してからというもの、ザフトの攻撃で常に死の危険に苛まれ、やっと落ち着
けると思ったアルテミスも、味方の裏切りと敵の攻撃で追い出されてしまった。生活面の不満も
溜まっていた。ついこの間まで、物資不足でシャワーも使えなかったのだ。まあそちらの方は、
デブリ帯での補給で何とかなったのだが、余計な『もの』までやって来た。いや、正確には『拾っ
た』のだが。
「驚きましたわ。まさかこんな所で、ガーネットお姉様に会えるなんて思ってもいませんでした」
 ラクス・クライン
 プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの一人娘。その容姿と美しい歌声で、人々を魅了
しているザフトの歌姫。そして、フレイの大嫌いな『コーディネイター』である。
 ラクス本人はザフトの所属ではない。とはいえ、一般人として扱うには、彼女の立場は特殊す
ぎる。そこで、彼女の旧知であるガーネットが監視する事になった(ナタルは反対したが、ガーネ
ットが彼女の耳元で二言三言囁くと、顔を真っ赤にして了承した)。だが……。
「へえ、昔のガーネットさんって、そんな人だったんだ」
 キラがそう言うと、ラクスは頷いて、
「ええ。明るくて優しくて、普段はとても良い子ちゃんなんですけど、実はとってもイタズラ好きで、
わたくしやアスランもよく泣かされました」
「ちょっ、ちょっと、ラクス!」
 厳重に監視されているはずのラクスは今、食堂でキラやガーネットを前に楽しく話し込んでい
る。サイやミリィ、トールやカズイまで参加している。どうにも入りづらく、フレイはこっそり食堂の
中を伺っていた。
「意外だな。ガーネットさんって、もっとクールなイメージがあったけど……」
 サイがそう言うと、ラクスはニコニコ微笑んで、
「一年前、ザフトの閲兵式でお姉様を見た時は、びっくりしましたわ。凄く怖くて冷たい顔をして、
誰とも話そうとしないし、誰とも親しくない。わたくしの知っているお姉様とは、まるで別人なんで
すもの。でも、見る人が見れば、すぐに演技だと分かりますわ。お姉様、あまり演技の才能はあ
りませんね」
「ラクス、もう勘弁してよ……。あの時はもう、ザフトを離れるつもりだったから、誰にも情が移ら
ないようにしてたんだよ」
「まあ、お姉様ったら。相変わらずズルい女ですわね」
「それ、褒め言葉じゃないよ、ラクス」
「ええ、全然まったく褒めてませんから」
「ラ〜ク〜ス〜!」
 天然ボケのラクスに、ツッコミを入れるガーネット。微笑むキラたち。戦艦の中とは思えないほ
ど穏やかな空気が流れていた。
「? フレイ、そんな所で何してるんだ? 君もこっちに来ないか?」
 フレイに気が付いたサイが呼びかける。
「ラクスさんが色々面白い話をしてくれるんだ。君も聞いて…」
「…………嫌よ」
「フレイ?」
「嫌よ! 何でアタシがその子と仲良くしなくちゃならないのよ! みんな、おかしいんじゃない
の? その子は敵なのよ! コーディネイターなのよ! 私たちを殺そうとしているコーディネイタ
ーの仲間なのよ!」
「!」
「!」
 フレイの言葉は、ラクス本人より、キラとガーネットに突き刺さった。



「フレイさんは、コーディネイターがお嫌いのようですね」
 食堂から、彼女に与えられた個室に戻った後、ラクスはそう呟いた。一緒に戻ってきたキラは
何も答えなかったが、ガーネットはため息をついて、
「まあ、しょうがないよ。あの娘は『あの』ジョージ・アルスターの娘だからね」
 と答えた。
 ジョージ・アルスター。地球連合外務次官。反プラント、反コーディネイターを公然と唱えてお
り、プラント側のブラックリストにも載っている危険な政治家だ。この父親をフレイは尊敬してお
り、思想(かんがえかた)も同じらしい。
「相当、甘やかされて育ったみたいだね。自分の言動が他人を傷つけるという事を理解してない
のかもしれない」
「ガーネットさん、いくら何でもそれは……」
「へえ、キラはあの娘を庇うんだ。まあ、見た目はかわいいからね。やっぱり、あんたもああいう
女の子が好きなのかい?」
「ガ、ガーネットさん!」
「お姉様。お姉様にフレイさんを悪く言う資格はありませんわ」
「? ラクス?」
「お姉様もフレイさんと同じ様に、あまり他人の事は考えてらっしゃらないようですね。いえ、お姉
様の場合、あえて無視しています。フレイさんより酷い人ですわ」
「酷い人って、ラクス……」
「アルベリッヒ伯父様がお亡くなりになられてから、わたくしたちがどれほどお姉様の事を心配し
たのか、考えられた事がありますか? わたくしやアスランだけではありません。お父様や、パト
リック伯父様もどれほど……」
「ラクス」
 頬を膨らましたラクスの文句を、ガーネットは強引に止めた。
「考えたわよ。そして、ちゃんと知ってる。あんたたちの気持ちはね。けど、それでも私は……」
「ええ、分かってますわ。全ては分からないけど、少しだけなら分かりますわ。だから、お姉様は
酷い人なんです」
「……………ゴメン」
 膨れるラクス。謝るガーネット。キラは、この二人の少女が何かとてつもないものを背負ってい
る気がした。



 アークエンジェルに吉報が飛び込んできた。合流予定の第8艦隊から、先遣隊として『モントゴ
メリ』、『バーナード』、『ロー』の三艦が派遣されたのだ。
 また『モントゴメリ』には、フレイの父、ジョージも乗っているという。父との久々の再会を喜ぶフ
レイは、シャワーを浴び、取って置きのパックまでして、お出迎えの準備をした(あまりの浮かれ
ぶりにミリアリアは少し呆れていたが)。
 だが、喜びもつかの間。行方不明のラクスを捜索していたクルーゼ隊も、『モントゴメリ』らの存
在に気づき、攻撃を仕掛けてきたのだ。
 クルーゼ隊旗艦ヴェサリウスから出撃するイージス。そして、クルーゼがプラント本国から連れ
てきたジンが十機。これだけの戦力が一部隊に与えられた例はほとんど無い。対ガーネット用
にクルーゼが手を回したようだ。
 『バーナード』と『ロー』は、あっさり撃沈。『モントゴメリ』にも敵の手が迫る。間一髪のところでア
ークエンジェルが駆けつけ、キラたちが出撃する。
 キラのストライク、フラガのメビウスゼロ、ガーネットのシャドウ、それぞれが激しい戦いを繰り
広げていた。ストライクはイージスと一騎打ちを展開、メビウスゼロは中破し帰還。十機のジンは
シャドウが一機で相手をしていた。
「まったく、無茶な事をさせるね!」
 文句を言いつつ、ガーネットのシャドウは十機のジンと互角に戦っていた。いや、むしろ押して
いた。二振りのナイフがジンの首を、腕を、次々と落とす。
「相変わらず、とんでもない子ね……」
 ガーネットの獅子奮迅の戦いぶりに、マリューが呟く。
「彼女は絶対に敵にはしたくありませんね」
 ナタルも呟く。色々な意味で、正直な気持ちだった。
 キラも頑張っている。これなら何とかなるかもしれない。アークエンジェルの誰もがそう思った。
だが、たった一人のパイロットの参戦で戦況は一変した。
 指揮官用MSシグー、接近。ラウ・ル・クルーゼ自ら出撃したのだ。標的は、かつての部下、ガ
ーネット・バーネット。
「! クルーゼ!」
「久しぶりだな、ガーネット・バーネット! かつての上司として、貴様の罪を清算してやる!」
「ほざくな、この仮面男!」
 シャドウ対シグー。パイロットの腕はほぼ互角、機体性能はシャドウの方が上だが、この戦い
はシャドウには不利だった。
 クルーゼは、シャドウの間合いに決して近づかなかった。シャドウの武器(ナイフ)が届かない
距離からライフルで攻撃。シャドウが近づいてきたら、即座に距離を取り、ライフルを発射。戦闘
の基本、ヒット&アウェイ。遠距離用の武器を持たないシャドウを相手にするなら、これほど効果
的な戦法は無い。必勝法と言ってもいいだろう。しかも相手はザフトのエース、ラウ・ル・クルー
ゼ。まったく隙を見せない。
 攻撃も撤退も不可能。シャドウは網に掛かった魚も同然だった。
『くっ、このままじゃ……。トゥエルブを使うか?』
 ガーネットはシステムに『問いかける』が、期待していた『答え』は無い。
『肝心な時に、まだ寝ているの? バカ親父、どうせ作るなら、もっと使えるシステムにしておきな
さいよ!』
 亡き父親にグチるが、どうにもならない。
 そしてついに、最悪の事態が起きた。
 生き残っていたジンの部隊が、ついに『モントゴメリ』を襲撃。ジンの攻撃で戦闘能力を失った
『モントゴメリ』をヴェサリウスの主砲が貫き、『モントゴメリ』は爆発四散した。フレイの父親と共
に。
 援軍を失い、絶体絶命の危機に陥ったアークエンジェルは、あえて非道な手段を取った。ラク
スを人質にしてクルーゼ隊に撤退を要求したのだ。
「ふん。何とも格好の悪い事だな。こんな下劣な連中に手を貸すと言うのかね、ガーネット・バー
ネット?」
「……………………ああ、そうさ。これが私の選んだ道だ。迷わず、突き進むのみさ」
「死出の道を、か? せいぜい首を洗って待っておくんだな。いずれムウ・ラ・フラガ共々、私の
手で始末してやる」
 去っていくシグーの後姿を見て、ガーネットは歯軋りをしていた。自分の弱さに腹が立った。
『くそっ! あの武器さえあれば……!』



「パパの船が……パパの船が! 嘘よ、こんなの嘘よ!」
 アークエンジェルに戻ったキラとガーネットを待っていたのは、フレイの悲しみと怒りだった。サ
イの胸の中で泣き叫ぶフレイ。
「嘘つき!」
 そう叫び、キラを睨むフレイ。その眼には怒りが渦巻いていた。
「大丈夫って言ったじゃない! 僕たちも行くから大丈夫だって!」
 それは出撃前にキラがフレイに言った言葉。『約束』などという大層なものじゃない。フレイの不
安を和らげるために言った、ただの『気休め』。だが、フレイにとっては……。
「何でパパの艦を守ってくれなかったの! 何であいつらをやっつけてくれなかったのよ!」
「………………」
 キラは言い返さない。辛そうな顔をして、下を俯いている。隣にいるガーネットも同じだった。不
甲斐ない自分に腹を立てていた。
「あんた、自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょう!」
「!」
 衝撃を受けるキラ。だがその直後、乾いた音が鳴り響く。ガーネットの平手が、フレイの頬を叩
いたのだ。
「………………な、何するのよ!」
 文句を言おうとしたフレイの襟首を、ガーネットが掴む。そして、フレイ以上に怒りに満ちた眼
で、彼女を睨みつけた。
「目の前で父親が殺されたんだ。感情のまま、言葉を放つのは分かるし、大概の事は眼をつぶ
るさ。けど、それでも言っていい事と悪い事があるんだよ! あんた、今、自分が何を言ったの
か分かってるのかい? あんたはキラだけじゃない、前線で命を懸けて戦っている全ての人間
を、全ての兵士を侮辱したんだ!」
「な……何よ! 普段は偉そうな事言って、何も出来なかったくせに! 私のパパも守れなかっ
た、能無しのコーディネイターのくせに!」
「言ってくれるじゃないか……。ああ、そうだよ。確かに私もキラもコーディネイターさ。あんたたち
ナチュラルより、色々な面で優れている。けどね、それでも銃で撃たれれば死ぬし、守りたくても
守れない時があるんだ! 私たちはコーディネイターであって、何でも出来る神様じゃないん
だ! あんたたちナチュラルと同じ、人間なんだよ!」
 それは魂からの叫びだった。そしてその言葉は、その場にいた者たちの心に、深く刻み込まれ
た。
 キラ・ヤマトの心に。
 フレイ・アルスターの心に。
 サイ・アーガイルの心に。
 ミリアリア・ハウの心に。
 そして、偶然その場を通り掛かり、外で聞いていた、ラクス・クラインの心に。
 それぞれの心に深く、深く、刻み込まれた…………。



 深夜、アークエンジェルを抜け出し、宇宙空間を駆けるストライクとシャドウ。ストライクにはキラ
とラクス、シャドウにはガーネットが乗っている。
「本当にいいのかい、キラ? 下手したら銃殺刑だよ」
「構いません。やっぱりこんなの、我慢できません」
「キラ様……」
「ガーネットさんこそ、いいんですか? 僕を手助けした事がバレたら…」
「私は大丈夫。これでも処世術は心得ているつもりだよ。小うるさい副長さんの弱味も握ってるし
ね」
「えっ?」
「さすがお姉様。抜かりはありませんわね。人の弱味を掴む事に関しては、天才的ですわ」
「ガーネット、エライ! ガーネット、スゴイ!」
「ラクス、そのオモチャは黙らせといて。まあそれに、私が防波堤にならないと、手伝ってくれた
サイやミリィにも迷惑が掛かるだろう?」
「………………すいません」
「あんたが謝る事じゃないよ。私が自分で決めたんだ。ま、それにあんたがやらなきゃ、私がや
ってたしね」
「そうですわね。お姉様はそういう方ですわ。イタズラ好きで、少し気の利かないところもあります
けど、本当はとても優しい人ですから」
「一応、褒め言葉として受け取っておくよ、ラクス。キラ、そろそろヴェサリウスに通信を」
「はい。…………こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライクとシャドウ
だ。ラクス・クラインを同行、引き渡す! ただし、ナスカ級は艦を停止、イージスのパイロットが
単独で来る事が条件だ!……」
 クルーゼは、この申し出を飲んだ。自ら仕掛ける事も考えたが、ストライクの側にはシャドウが
いる。うかつな事は出来ない。
『先の戦闘では上手く翻弄できたが、二度も同じ手が通じるほど、単純な女ではない。何らかの
対策をしているはずだ。敵の手が読めない上、命がけの勝負をするには、まだ早過ぎる。ここは
高みの見物といこうか……』
 クルーゼはそう読んだが、実際にはガーネットは何の対策もしてなかった。というより、考える
時間も無かったのだが。
 イージスが近づき、ハッチが開かれた。アスランがいる。
 ストライクのハッチが開かれ、ラクスが宇宙に舞う。シャドウのハッチが開かれると、ラクスはガ
ーネットに向かって、器用にお辞儀をした。
「それではガーネットお姉様、いろいろお世話になりました。どうか、お体にお気をつけて」
「ああ、ありがと、ラクス」
「キラ様もお元気で。サイさんやミリィさんたちにも、よろしくお伝えください」
「うん。さようなら」
「…………お姉様」
「ん?」
「わたくしも頑張りますわ。コーディネイターとしてではなく、平和を願う一人の人間として、平和の
歌を歌います」
「…………ああ。頑張りなよ」
 別れの挨拶を済ませると、ラクスはアスランの元に向かった。手を取り合う二人を見て、キラも
ガーネットも安堵していた。その時、アスランが、
「キラ! ガーネット! お前たちも一緒に来い!」
「!?」
「お前たちが地球軍にいる理由がどこにある?」
「………………」
 アスランの誘いに、ガーネットはため息をついた。ザフトで再会した時から思っていたが、まっ
たく、この坊やは昔とちっとも変わっていない。
「……僕だって、君となんて戦いたくない」
 ガーネットが返答する前に、キラが答えた。
「でも、あの艦には守りたい人たちが、友達がいるんだ!」
「キラ……だけど!」
「アスラン!」
 ガーネットが止める。
「まったく、あんたたちはよく似てるよ。自分より他人の事を大事にするところなんて、特にね」
「ガーネット……」
「アスラン、もしあんたが今のキラと同じ立場だったら、どうする? 友達を見捨てて、自分だけ
幸せになろうとするかい? そして、キラ・ヤマトって男は、そういう人間なのかい?」
「!」
「私もザフトに戻る気は無い。キラほど大したものじゃないけど、私にも戦う理由がある。アスラ
ン、たとえあんたを殺す事になってもね」
 強い言葉だった。
 アスランには、もう何も言えなかった。
 今、この瞬間、彼らの道は分かれたのだ。
「………………ならば、仕方ない。次に戦う時は、俺がお前たちを撃つ!」
 涙交じりの声で、アスランが叫ぶ。
「……僕もだ!」
「遠慮はしないよ」
 ストライクとシャドウのハッチが閉じられる。アスランは、二人との永遠の別れを覚悟した。もう
二人の顔を見る事は無い。これからは機体越しの会話、戦闘のみだ……!



 アークエンジェルの一室。暗黒の中でフレイが眼を覚ました。
 叩かれた頬はまだ赤く、痛みも治まらない。いや、この痛みは頬のものではない。心、精神の
痛みだった。
 コーディネイターのくせに。パパを殺したコーディネイターのくせに。私を殴って、傷つけて、侮
辱して、苦しめて……!
「あの女…………許さない」

(2003・6/14掲載)
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